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研究 Research

1.  唾液タンパク質の輸送と開口放出

唾液中には,消化に必要なアミラーゼや口腔内を保護するための抗菌・殺菌物質が含まれている。これらのタンパク質は唾液腺の腺房細胞で合成された後,ゴルジ装置において分泌顆粒に積み込まれ,刺激依存的に開口放出・分泌される。一方,タンパク質合成後,貯留することなく小胞によって分泌される構成性分泌経路も存在することが知られており,その選別はゴルジ装置で行われると考えられている。生理学講座では分泌タンパク質の輸送先を制御するメカニズムについて解析を行っている。

(1) リポータータンパク質HaloTagを利用した唾液タンパク質の細胞内輸送の可視化

我々はアミラーゼ遺伝子のシグナルペプチド配列を付加したHaloTagタンパク質が分泌顆粒に輸送され,刺激依存的に分泌されることを見いだした。これにより,唾液腺における分泌タンパク質の輸送と開口放出を生きた細胞で観察できるようになった。

HaloTagリガンドであるTMRの蛍光シグナルと分泌顆粒マーカーであるアミラーゼのシグナルの局在が一致する。

シグナルペプチド配列を付加したHaloTagは刺激依存的に分泌される。

泌刺激であるイソプロテレノール添加により,分泌顆粒が開口放出し,HaloTagリガンドの蛍光が消失する。

(2) タンパク質選別における膜脂質ドメインの役割

分泌顆粒はゴルジ装置で形成された後,成熟過程において内容物の選別と濃縮が行われると考えられている。我々は,成熟過程において膜タンパク質の分布が大きく変化することを見いだした。分泌顆粒膜には複数の膜脂質ドメインが存在し,膜タンパク質および内容物の選別に重要な役割を果たしていると考えている。

分泌顆粒の成熟に伴い,膜タンパク質組成が大きく変化する。

​未成熟な分泌顆粒膜に存在する膜脂質ドメインには,成熟顆粒マーカーであるVAMP2と未成熟顆粒マーカーであるsyntaxin6が混在している。しかし,成熟過程で膜脂質ドメインはVAMP2を含むドメインとsyntaxin6を含むドメインの2種類に分かれる。syntaxin6を含む膜脂質ドメインが分泌顆粒から出芽することにより,成熟マーカーのみを含むドメインが成熟顆粒に残ると考えられる。

2.  唾液腺細胞の機能維持と再生

唾液は口腔内環境を維持するために重要な体液であり,唾液分泌低下により口腔乾燥症になると,重篤な齲蝕,歯周疾患,また粘膜の感染症などが引き起こされる。潤滑成分が失われることから咀嚼や嚥下困難の原因にもなる。これらの口腔機能以外にも,口腔内衛生が悪化すると全身の健康状態に影響すると言われている。現在,口腔乾燥症患者は全国に800万人いると言われており,重大な問題になっている。我々は,口腔乾燥症の予防・治療法の開発を目標として,唾液腺の機能維持・再生メカニズムの研究を行っている。

(1) 唾液腺初代培養細胞における細胞ストレス応答

頭頸部癌への放射線治療やシェーグレン症候群のような慢性炎症によって,唾液腺腺房細胞は萎縮し機能低下が起こり,口腔乾燥症の原因となる。我々は唾液腺腺房細胞の機能低下メカニズムを明らかにするために,唾液腺初代培養細胞を用いて,機能低下に伴う形態および遺伝子発現変化を解析している。

唾液腺腺房細胞は,組織障害により遺伝子発現および形態が大きく変化する。腺房細胞マーカーであるアミラーゼやAquaporin-5は失われ,代わりに導管マーカーの発現が起こる。導管マーカーの発現は一過性で,次第にvimentinやfibronectinといった間葉系マーカーの発現が増加してくる。これは腺房細胞の脱分化過程であると考えている。我々は,脱分化がSrc-p38 MAP kinaseシグナルによって引き起こされることを見いだした。

(2) 唾液腺導管結紮による幹細胞マーカーの発現

唾液腺の機能低下の原因の1つである唾石症は,唾液腺導管が詰まることによって,唾液腺が障害を受け炎症が起こり,腺房細胞が萎縮・喪失する。しかし,炎症の程度が軽ければ,障害を除くことによって腺房細胞および唾液分泌機能が回復することが知られている。我々は,マイクロクリップを用いた唾液腺導管の結紮および開放によって起こる唾液腺の機能低下と回復メカニズムの解析を行っている。

3.  唾液タンパク質シスタチンの癌抑制効果

プロテアーゼとそのインヒビターは,癌の進展と転移に重要な役割を果たしている。カテプシンに対する内在性インヒビターであるシスタチンDは,主に唾液腺で合成され唾液や血液に分泌されるが,細胞種によっては分泌されず核内に輸送され,遺伝子発現を調節することにより癌の増殖・転移を抑制すると報告されている。つまり,プロテアーゼとそのインヒビターの細胞内局在や輸送経路の変化が,癌の発症や進展,転移に関わる可能性があることから,口腔癌細胞におけるシスタチンDの発現量・輸送経路の違いを解析し,輸送経路を制御することによって癌抑制効果が得られるかを調べている。

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